つらい過敏性腸症候群(IBS)の原因と治療法について徹底解説
入院しても完治ができず本当に困っている人が激増している腸の病気「過敏性腸症候群」について詳しくご紹介します。
1.過敏性腸症候群(IBS)の症状とは
過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)とは
代表的な機能性腸疾患であり、腸や血液検査で異常が見当たらないにもかかわらず、腹痛(あるいは腹部不快感)と便通異常(下痢や便秘や血便など)が慢性的、もしくは再発する状態の病気のことをいいます。
以前は大腸の機能の異常によって引き起こされる病気ということで[「過敏性大腸炎」や「過敏性大腸症候群」と呼ばれていましたが、最近の研究により、大腸だけではなく小腸にも関係することなどから呼び方が変わりました。先進国の20~ 40歳代に多く発症している病気です。
過敏性腸症候群(IBS)の症状
IBS診断としては、客観的な診断指標(バイオマーカー)は今のところないのですが、診断目安になっているのが
「腹痛または便通異常が3ヶ月継続、もしくは再発する状態で、最近3ヶ月の中の1ヶ月のうち少なくとも3日以上が下記の2項目以上が該当されるもの」
をいいます。
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4が一番正常な便形状
症状の分類としては3タイプに分けられます。
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(日本人男性一般生活者2万人の調査で、下痢系IBS患者は非IBS患者に比べ、役職が高く、年収も高いことが証明されました。)
IBSになると、腹痛や便通異常のほかに、頭痛、非心臓性胸痛、腰背部痛、排尿時不快感などの機能性疾患症状を訴えることが多く、まれにおこる合併症状としては、線維筋痛症、慢性疲労症候群、慢性骨盤痛、顎関節症、間質性膀胱炎、月経前症候群、気管支喘息があります。
2.過敏性腸症候群(IBS)になる原因とは
IBSの研究は国際的にも広く進歩しており、発症原因としては
ゲノム・腸内細菌・脳腸ペプチド・消化管運動異常 内臓知覚過敏・消化管免疫・粘膜透過性・ストレス |
などが関与していることがわかっており、これらを総合的に捉える概念として脳腸相関の重要性が明確になっています。
つまり。
腸内フローラの乱れ、腸内細菌の種類と数が少ないということです。
原因① 腸内細菌・粘膜炎症
IBSでは、腸内の常在菌が健康な状態の腸内細菌叢とは異なり、便秘型、下痢型、混合型によってもそれぞれ異なっており、小腸において腸内細菌の異常増殖をきたす場合があります。
IBSの腸内細菌をプロバイオティクスにより改善させようとする研究が進んでおり、大腸に多い善玉菌のビフィズス菌を中心に、複数同時菌種の摂取も試みられ、よい結果が出ていることによりプロバイオティクスは有効だといえます。
プロバイオティクスとは、腸内細菌のバランスを改善することによりヒトに有益な作用をもたらす生菌、またはその微生物を含む薬品や食品自体のことをさす。
プレバイオティクスは、上部消化管で分解、吸収されず、腸に共生する有益な細菌の選択的栄養源となりプロバイオティクスの働きを助け、腸内環境の改善を促進する作用を持つ物質のことで、オリゴ糖類や一部の食物繊維が代表的。
総合的にはプロバイオティクスはIBSに対して有効と考えられ、コスト的にも負担が少なく、副作用はほとんどないこともあわせIBS治療に対する治療として行うことを推奨する。
原因② 神経伝達物質と内分泌物質
IBS患者の神経伝達物質は、小腸・大腸をはじめ、脊髄・脳でも異常が認められる。IBSに最も関係する神経伝達物質は、セロトニン。
セロトニンの前駆物質であるトリプトファンを欠乏させると、IBS患者で内臓知覚が過敏となり、不安が惹起されます。
また、セロトニンから生合成されるメラトニン投与はIBS患者の腹痛を改善することがわかっています。
原因③ 心理的異常
代表的な心理的異常はうつ病と不安症。脳腸相関であることから、機能性消化管疾患であることが、うつ病と不安症を発症させる確率が高い。また、幼少期の虐待などの重大なストレスもIBS発症のリスク要因になることがわかってきました。
原因④ ストレス
ストレスの負荷が消化器症状悪化につながることは必須で、さらに人生早期に受けた外傷的ストレスはIBSのリスクを高めることがわかってきました。
原因⑤ 遺伝
母親がIBSであれば、その生活行動を自然に子が真似をし、IBSになっていくという学習効果、あるいはエピゲノムの影響が考えられます。
また、遺伝子が関係する可能性がある場合としては、性別により症状が違うことで、男性よりも女性の方が腹痛を訴えやすく、便秘型IBSが多いということと、女性よりも男性のほうが下痢型IBSが多いことが証明されています。
3.過敏性腸症候群(IBS)の治療方法とは
① 腸内環境を整えることを最優先課題とし、次に②生活・食事指導、③薬物療法、④心身医学的治療へと進めます。
① プロバイオティクスの摂取
腸内細菌の種類と数が少なく、腸内フローラが乱れていることで、あらゆる不調を訴えることになっているので、激減している腸内細菌を摂取することが最優先に取り組むべき治療方法です。
腸内フローラのベストバランスは、善玉菌:悪玉菌:日和見菌=2:1:7であり、善玉菌の働きを助ける日和見菌をいかに多く摂取することが重要です。 腸内細菌は、200種類100兆個いるといわれていますので、一種類の菌を摂取するのではなく、有用な菌を数多く摂取することが、腸内環境の改善には最短です。
② 生活・食事指導
約6割のIBS患者が、食事によって腹痛が悪化したりガスが発生しやすくなるので、食事の改善は必須です。
まずは、脂質が多いもの、香辛料は避けましょう。水溶性繊維食は便秘型に有効なだけでなくIBS全体症状に対しても有効ですが、不溶性繊維食(トウモロコシ、小麦など)は腹部膨満感が生じやすくなる人もいるので注意が必要です。
また、欧米では低FODMAPダイエットが、IBSに有効であると最近注目されています。 これらの糖類は小腸内で消化・吸収されにくいために、大腸に流入し、大腸内で発酵が促進され、ガス産生を起こすだけでなく、浸透圧により腸管内腔への水分貯留させることができるからです。
F= fermentable(発酵性) O=oligosaccharides(オリゴ糖) D=disaccharides(二糖類) M=monosaccharides(単糖類) And Polyols(ポリオール) |
低FODMAPの食材 バナナ・ブルーベリー・メロン・レモン・グレープフルーツ ぶどう・みかん・人参・ピーマン・きゅうり・インゲン豆 レタス・セロリ・じゃがいも・かぼちゃ・グルテン抜きパン 米・オーツ麦・ラクトース抜き牛乳・ヨーグルト・豆腐 |
現在のところ体系的な食事療法に関する大規模な臨床研究が十分に実施されていないため、有効な特定の食事療法は確立されていません。
ただ、運動、禁酒、禁煙、良好な睡眠、休養などの生活習慣の改善は、有効性が高いといえます。
参考:代替医療は効果ある?
●マッサージやカイロプラクティックなど体に働きかけるもの
→有効でない
● 瞑想や自助グループの利用など心身に働きかけるもの
→被験者10人が有効と報告あるが、10人の臨床人数が微小すぎる
● ハーブや自然食品などを使うもの
→ペパーミントオイルは有効
● 気功や鍼、磁力などを使うもの
→有効でない
● ホメオパシーや漢方などを用いるもの
→漢方薬は一部、便秘型を少し改善するものもあるが、下痢型には効果なし
引用:日本消化器学会 機能性消化管疾患診察ガイドライン2014-過敏性腸症候群
Evidence-based Clinical Practice Guidelines for Bowel Syndrome
まとめ
- 過敏性腸症候群は、先進国の20~40代に多く発症する代表的な機能性腸疾患であり、腹痛と便通異常が慢性的に継続する病態のこと。
- 下痢型・便秘型・混合型に分類され、原因としては、ストレスや腸内細菌の減少での腸内フローラの乱れだといわれている。
- 治療としては、生活・食事改善とプロバイオティクスの摂取を優先的に行うことで早期の改善がみこまれる。
- 注意として、IBSにFD(機能性ディスペプシア)が合併する確率は高く、また、IBSにGERD(胃食堂逆流性)が合併する頻度は、非IBSの2倍以上であるという報告がある。
- IBSからIBD(炎症性腸疾患)に移行するのは確実で、炎症性腸疾患(IBD)からのIBS合併はクローン病(CD)と潰瘍性大腸炎(UC)が高率で発症するといわれている。