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『五行論』とは、自然界の成り立ちをたった5つの要素で表現!人体にも応用

前回は陰陽論について詳しく述べましたので、今回は『五行論』について解説していきます。

五行論とは、自然界のすべてのものを木、火、土、金、水の五つに分類する考え方です。人間の身体では木=肝・胆、火=心・小腸、土=脾・胃、金=肺・大腸、水=腎・膀胱となり、五臓六腑がそのまま五行論とリンクしています。


前回に引き続いて『陰陽五行説③』をご説明いたします。



1.五行論とは

五行論とは、自然界に存在するすべてのものを、木・火・土・金・水の5つの元素に分類する理論です。


東洋医学では、五臓をはじめ、さまざまな物質や諸器官を木・火・土・金・水(もく・か・ど・ごん・すい)の特性に合わせて5つに分類し、診断や治療に応用しています。

そのため、五行論は東洋医学を理解するうえで欠かせない考え方となっています。


5つの特性




木(曲直・条達):樹木が成長することで、伸展、上昇などの意味をあらわす。

火(炎上):火が燃えることで、温熱、上昇などの意味をあらわす。

土(稼穡かしょく:播種、収穫など農作物と関連して万物を生かす。

金(縦革じゅうかく:変革をあらわし、清潔、粛降(下ろす)、収斂の意味をもつ。

水(潤下じゅんか:水のように、下ろしたり潤したりといった意味をあらわす。



五行間にある『相生・相克関係』とは


木は火を生み出し、火は土を作り、土から金属が生じ、金属表面には水滴が生じ、水は木を育てる・・・この関係を『相生関係』と言い、それぞれを生じ育み合う関係です。


しかし、この関係だけだと膨れ上がっていく一方ですので、お互いが抑制する働きもあります。それが『相剋関係』と言い、木は土から養分を奪い、土は水を吸収し、水は火を消し、火は金属を溶かし、金属は木を切り倒す・・・これらの関係性がバランスよく働くことで、自然界の秩序は保たれ、人間も健やかに生命活動を行えるのです。



ちなみに今年の干支は戊戌(つちのえいぬ)。この「戊(つちのえ)」とは「土の兄(陽)」のことで、「陽の土」という意味です。「戌(いぬ)」もまた「陽の土」の意味を持っており、皆さんにもなじみの深い干支も、陰陽五行論から出来ているのです。



2.五行と臓器の関連性について


人体における五臓六腑ですが、東洋医学的な概念と西洋医学的な概念は大分違っています。例えば「膵臓」って、とても大事な臓器だと皆さんが知るところですが、東洋医学では「膵臓」ってないんです。これはどうしてでしょうか?


そもそも江戸時代までは、五臓六腑の概念は東洋医学のものでした。そこにオランダ医学が入ってきて、杉田玄白らが「ターヘルアナトミア」という解剖学の書を翻訳することになりました。

その際に、例えば「liver」(リバー)という臓器をどう訳そうか?となったとき、直訳なら「生きる」になるところ、「これは我が国の医学でいうところの肝臓に違いない」となり、「liver」=「肝臓」と翻訳したのです。元々、陰陽五行説から発展してきた東洋医学の五臓六腑を、無理やり西洋医学の解剖学に当てはめてしまったのですね。


そして「膵臓」に至っては、本来は東洋医学の「脾臓」を当てはめるべき臓器なのですが、消化吸収を主るとても重要な臓器に「卑(いやしい)」という字を付けたくないという理由で、あつまるなどの意味を持つ「萃」から文字を作って「膵臓」としたそうです。本来は「脾臓」の「卑」にもとても重要な意味があるのですけどね・・・


このような歴史的背景があって、東洋医学の臓器と西洋医学の臓器が同じような名前で厳密には別物という、一般の方が理解しにくい事態になってしまっているようです(脾臓以外は機能的に似た働きを主るところも多いですが・・・)


端的に言うと、東洋医学の臓腑は精神意識活動も主っていたり「気・血・水(き・けつ・すい)」の生成運搬という機能を主っていたりします

それと、それぞれの五臓六腑に対応する「経絡(けいらく)」を介して、手足を含む全身に影響を及ぼしているというのも大きな特徴です。


3.五臓六腑について

五行論を医学に応用するためには、五行と臓器を関連する必要があったので、まず体腔の五臓(肝・心・脾・肺・腎)を、それぞれの特性に合わせて木・火・土・金・水に割り当てられ、器官や機能をも結びつけられました。



肝(木):木の「曲直、条達」の特性をもつため、樹木のように気を伸びやかに巡らす機能を持ち、抑鬱を嫌う。

心(火):火の温熱の性質から、体を温める温煦おんく作用などをもつ。

脾(土):土がもつ万物を生化させるという性質から、水穀を運んで五臓六腑に栄養を与え、気・血の源ともなる。

肺(金):金の粛降・収斂という性質から、肝の陽気が上がろうとするのを抑制したり、水を下げて腎を助けたりする。

腎(水):水の作用で心火の亢進による熱を抑制する。また、腎は精を蔵し、その精で肝を養う働きをもつ。


五臓六腑についてですが、五行論なのになぜ六腑なの?という疑問があるかと思います。


腑の最後のひとつは「三焦」と言い、心・肺=上焦 肝・脾=中焦腎=下焦というそれぞれの臓が持つエネルギー源とその交流を示したもので、他の五腑とは性質が違い、「孤腑」とも言われています。


そして経絡は十二本あり、五臓六腑それぞれに繋がっています。経絡の残りの一本は「心包」という臓に繋がっており、「心包」は「心」のエネルギーが出てきて働いているものを示しており、「三焦」と陰陽関係になっています。(すべて合わせて「六臓六腑」という表現をすることもあります。)



以上で、陰陽五行説の解説を終わります。この概念はとても奥が深いものではありますが、基本的な考え方を知っていれば東洋医学のことは理解していきやすくなると思います。なぜなら、東洋医学のすべてはこの陰陽五行説が出発点になっているからです。


では、次回は人体を構成する基礎物質である「気・血・水」について解説したいと思います。




我孫子 大輔(漢方脉診流あびこ鍼灸院長)

我孫子 大輔(漢方脉診流あびこ鍼灸院長)

臨床に携わって20年。開院後も日々『東洋医学』『脈診』『鍼』の理論と技術を探求。KACS(漢方鍼灸臨床研究会)副会長を務め、後進育成の研修講師も兼務。担当講義にシリーズ『漢方病理学講座』『病態パターンと各証の病理学』『実地臨床における脉状考察』等。

漢方脉診流鍼灸

あびこ鍼灸院

脈診』というのは、一般的な鍼治療ではなく、手首の脈を診る東洋医学独自の技術です。手足のツボを使って、身体内部からカラダ全体の氣・血・津液バランスを改善していきます。 詳しくはパンフレットをご覧ください。
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